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メッセージ:

安全保障関連法制と大学            (中富公一 岡山大学教員・法学部)

 

 改憲を掲げて登場した第2次安倍内閣は、「防衛を取り戻す」をスローガンとする自民党「新『防衛計画の大綱』に関わる提言」(2013年6月4日付)を発表しました。そこでは、日本を「戦争する国家」へと改造することが目的とされ、国家安全保障基本法の制定,防衛産業の育成,武器輸出三原則の見直し、国家安全保障会議(NSC)の設置,日米の軍事情報保全のための特定秘密保護法の制定が謳われ、さらには,集団的自衛権の行使を可能するとされていました。これらは着々と実行に移され、そして2014年7月1日、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を閣議決定により行うという立憲主義国家にあるまじき行為を行いました。

 そして今、集団的自衛権の行使を可能とするいわゆる戦争法案が採決されたと言われています。この法案には、大多数の憲法学者が憲法違反であると表明し、また元内閣法制局長官等も違憲である旨の発言をしていました。そして国民の過半数は、国会での成立に反対してきました。しかし、政府はこれらの声に耳を傾けようともせず法案成立に向けて走り続けました。こうした安倍内閣の正当性はどこにあるのでしょうか。安倍首相は少なくとも選挙で国民から審判を受けているから自分のやることは正当性があるのだと言ってきました。しかし今回の問題は,国民の過半数以上が反対しています。国民の意思は問題ではなく,選挙で勝つことが民主主義だと言っているようです。私たちは,国民との対話なき民主主義が,民主主義の名に値するのか問いたいと思います。

 「戦争をする国」を目指すなかで危惧されるのは、一部の人々に、理性と寛容を失った言論や行動が目立ってきていることです。また政府関係者によって、表現の自由への攻撃が公然と語られ、さらには教育分野への干渉もこれまで以上に激しくなることが予想されます。学問の自由に基づく教育研究も重大な危機に直面するのは必至です。

 軍事研究の制限や平和教育の推進などを内容とする大学憲章などが国会等で攻撃されたり、日の丸掲揚・君が代斉唱の実施が大学に実質的に押しつけられたりしています。これらは、「自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。」としている教育基本法第7条2項に反する不当な介入です。

 さらにこれら介入の動きと連動させながら、政府は、イノベーション改革を掲げ、大学予算一般を減少させつつ財政誘導を行い、高額の軍事研究予算を提示したり、人文社会科学系学部、大学院は、「組織の廃止や社会的要請の高い分野に転換する」ことを要請したりしています。(このことについての私のかんがえは、http://zendaikyo.or.jp/?page_id=28をご覧下さい。)これらの動きも、安倍内閣の「戦争をする国」づくりに繋がるものでしょう。

 学問は人類が長きにわたって継承・発展させてきた人類共通の財産です。そのためにも、学問の自由、大学の自治が守られるべきです。学問は社会の要請に応えるべきであるかもしれませんが、とはいえ、学問には大学の自治が不可欠です。そのことによって初めて、学問は、世界の平和と人々の共存、持続可能で豊かな社会のために用いられることができると考えます。安保関連法案が成立したとしても,いやだからこそ,このことを改めて確認したいと思います。
 

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